2021.12.10
産業廃棄物処理委託契約書には、会社名とともに「社長」や「工場長」などの個人名が記載されます。この名義人の選び方について、ルールはあるのでしょうか?「契約先から、社長ではなく工場長の名義で押印されてきた、社長でなくてよいのか?」という質問を受けることもあります。
今回は、契約書の名義に関わる法的なルールを整理します。
法律上は「代表者」もしくは「政令使用人」
委託契約書に「代表取締役社長 〇〇 〇〇」と記載されていれば、皆さん満場一致で問題ないと考えると思います。法人の代表者ですから、これ以上の責任者はいません。だからといって、とりあえず代表者名義にしておけば良いかというとそうもいきません。
代表者名義とする場合のデメリットもあります。
まず思い浮かぶのは「締結完了までに時間がかかる」ということです。
工場から本社に契約書案を送り、社長の押印が完了するまでに数週間かかる場合も多く、長いと1~2ヶ月もかかってしまうケースもあります。社長のスケジュール上の問題もありますし、内容のチェックが厳格に行われるという理由もあります。
会社規模にもよりますが、複数の工場を持つ会社の社長が、産業廃棄物処理委託契約の内容をしっかり確認して押印するというのは現実的ではありません。本社環境部や法務部が入念なチェックをしてから、内容に問題がないことを前提として、社長の押印を申請するというのが実態だと思います。
こうした事情から、社長名義での契約はどうしても時間がかかってしまいます。
そのため、工場長や支店長など各拠点の責任者の名義で契約締結をするケースも多いです。工場長や支店長名義で契約することは、法律上問題ありません。
工場長や支店長のように、拠点の責任者を「政令使用人」と呼びます。
「使用人」とは、簡単にいうと会社に雇われている従業員全般を指します。ここに「政令」が着くことで、「会社から契約を締結する権限等を与えられた責任者」という意味になります。
政令(施工例)第4条の7
法第七条第五項第四号ト、ヌ及びルに規定する政令で定める使用人は、申請者の使用人で、次に掲げるものの代表者であるものとする。
一 本店又は支店(商人以外の者にあつては、主たる事務所又は従たる事務所)
二 前号に掲げるもののほか、継続的に業務を行うことができる施設を有する場所で、廃棄物の収集若しくは運搬又は処分若しくは再生の業に係る契約を締結する権限を有する者を置くもの
これは処理業者の欠格要件に関する条文です。
このように、廃棄物処理法における「政令使用人」は処理業者の工場長など「拠点の代表者であって、契約を締結する権限を持っている人」を指します。廃棄物処理法だけを見ると、処理業者のみを指す言葉のように思えますが、廃棄物処理法以外の様々な法律でも「政令使用人」を定めています。
そのため、業種に関わらず「拠点の代表者で、契約締結の権限を持っている人」を一般的に「政令使用人」と呼んでいます。ですので、御社の工場で、代表者である工場長が会社から契約締結権限を与えられていれば「政令使用人」として、工場長名義で契約しても問題ないということになります。この場合でも、社長名義の場合ほどではありませんが、ある程度の時間を要することと、申請前に内容のチェックを行わなければならない点は変わりません。
であれば、もっと近いところで契約内容もある程度把握している人物が締結するのはどうでしょうか?
例えば、「環境課長」でもOKとなれば、内容も本人がある程度把握した上で、スピーディな契約締結をすることができそうです。
察しの良い方はもうお分かりかと思いますが、課長印ではNGですね。「政令使用人」は「拠点の代表者」という条件がありますから、工場長や支店長ではない課長が押印することはできません。
小売店など、小規模拠点を持つ業態では、課長級以下が店長など拠点の代表者となる場合もあります。この場合はOKです。役職のランクではなく「拠点の代表者」というポジションがポイントです。
「政令使用人」が契約することのデメリットは?
拠点の代表者名義で契約することは、スピーディに契約できるメリットがありますが、いくつかデメリットもあります。
まず、会社全体で見た時に、管理が煩雑になりやすいという点が挙げられます。契約書の作成・チェック・押印まで、全て工場や支店内で完結するため、本社がその実態を把握しきれないケースが多いです。拠点ごとの管理レベルにバラつきが発生することも多く、定期的な社内監査などで不備が指摘されます。
また、小規模な拠点では、廃棄物処理法の知識を持って契約書を作成できる担当者がいないことも多く、処理業者が作成した契約書の内容が適切にチェックされず、言われるがまま押印しているだけ…というケースもあります。
こうした場合、いくらスピーディに契約できたとしても、内容の不備が発生する可能性が高くなってしまいます。行政の立入検査等で違法と指摘されてしまうリスクが高まっては、元も子もありません。
さらに、自社処理施設を持つ企業には「欠格要件」のリスクもあります。
欠格要件とは、産業廃棄物処分業・収集運搬業といった業許可や、処理施設を持つことに対する施設許可に関して、「該当した場合、許可をしてはならない」という要件のことです。欠格要件は、会社が環境関連法違反していた場合や、「役員等」に犯罪行為や暴力団との関連があった場合に該当します。この役員等は、社長や取締役だけではく、「等」の部分に「政令使用人」も含まれます。許可申請時には、「役員等」の名簿を提出します。
そのため、拠点ごとに契約締結の権限を持たせている場合は、その拠点の代表者が「欠格要件」に該当してしまうと、会社の許可が取り消されてしまうのです。
企業が施設許可をとる場合、事業場単位ではなく法人単位の名義で取得するので、大きな工場のみが焼却施設を持っていた場合でも、全く関係ない営業所長の不祥事で、工場の許可が取り消されてしまいます。
小規模拠点に契約権限を持たせるということは、皆さんの想像以上にリスクの大きな行為かもしれません。
ちなみに、欠格要件は個人の犯罪行為でも該当する場合があります。例えば、酒酔い運転やひき逃げ、酔って知人に暴力を振るってしまったという場合でも、禁錮刑以上になれば欠格です。個人の素行は完全にコントロールできないため、廃棄物処理施設を持つ企業は拠点の政令使用人を増やすほど、どうしてもリスクが増えてしまいます。
委託先の「政令使用人」も要チェック
「政令使用人」は欠格要件の対象になるので、委託先の処理業者が工場長名義で契約している場合は、同様に欠格要件の対象になります。
相手が政令使用人を立てること自体には意見できません。ただし、より堅く考えるなら、相手が「政令使用人」として許可申請時の届出に該当の工場長を記載しているかどうかは、チェックしても良いと思います。
許可申請時に、「役員等」の名簿は提出しているはずなので、もしそこに工場長の名前がなければ「契約する権限のない人物の印で契約している」ということになってしまいます。
ここまでチェックするのは、マニアックかもしれませんが、年次の委託先監査がマンネリ化しているという担当者も多いので、一つの項目として加えてみても良いかもしれません。
名義に関わらず、契約内容は現場に備え付けを
以上のように、一定の条件を満たせば工場長など、拠点の責任者の名義で契約することに問題はありませんが、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、現場の運用も適切に行いましょう。
最後に、仮に契約書の締結は本社一括で完結していたとしても、コピーは排出事業場に備え付け、必ず参照できるようにしておきましょう。
契約内容を把握し、適切に運用するためには現場で契約書の内容が確認できるべきですし、万が一、行政の立入検査等で、契約書の内容確認を求められた際にすぐに出せなければ(それ自体は違法ではありませんが)適切な管理ができていないのではないか?と無用な疑いが生まれ、より厳しく検査されるかもしれません。