2022.09.08
コンサルタントとして、排出事業者に様々な提案をしている中で、処理委託先の検討だけでなく、自ら処理によって委託量を減らす施策を提案することがあります。これまで、業界では様々な処理方法が開発されており、今後も新たな処理方法が実用化されると思います。
また、方法としては以前から存在する処理方法も、改良を重ねた結果、小型化や高効率化により、企業に導入されやすくなることも。その際に、排出事業者が必ず確認するのが「許可が要るのか?」ということです。今回取り上げる熱分解やオゾン処理、シアン分解といったものはどうなるのでしょうか?
詳しく解説していきます。
業許可と施設許可の要否
他人の廃棄物を受け入れる場合に必要な「業許可」とは別に、廃棄物処理施設を設置する場合に必要な「施設許可」が必要です。自ら処理であれば「産業廃棄物処分業」の許可は不要ですが、施設許可は「自ら処理」であっても取得が必要な場合があります。処理施設の許可要否は表1のとおりです。
例えば、プラスチックや木くず、有機汚泥などを燃焼させずに分解する炭化(熱分解)処理装置、廃液中の有害物質を分解するオゾン処理装置、有機汚泥を分解する微生物処理槽など、これらを導入する場合には施設の設置許可が必要なのでしょうか?この具体例を題材に考えてみます。
表1 施設許可の要否
原則15条施設に当てはまるか?で判断
施設許可が必要な施設は、表2に該当する施設です。産業廃棄物の処理施設は、廃棄物処理法第15条に規定されているため、15条施設と呼びます。
表2 施設許可が必要な施設
※令別表第3の3に掲げる物質。
この表2に当てはまるものがなければ、施設許可は不要となりますね(ただし、都道府県、政令市によっては規模要件がより厳しくなって(上乗せ横出し)、法で指定されている種類以外の施設についても設置許可の対象とする(横出し)条例を設けている場合がります)。
これだけならば単純な話なのですが、冒頭に挙げた炭化(熱分解)処理装置の場合、「焼却施設では?」という疑問が生じる場合があります。実際に、行政から「許可が必要」と指摘を受けたケースもあるようで、改めていわれてみると、焼却と熱分解の境目はどこにあるのか?明確に説明するのは難しいかもしれません。一般的に熱分解とは、酸素などを伴う継続的な燃焼(酸化反応)がない状態で加熱のみによって化学分解することをいい、炭焼きのように熱分解で炭素のみが得られる現象が炭化と呼ばれているようです。
焼却施設については、汚泥、廃油、廃プラ、PCB汚染物等について、それぞれ指定されていますが、第13号の2で、それ以外の焼却施設について「処理能力200kg/h以上」もしくは「火格子面積2㎡以上」が指定されているため、規模要件を超えればあらゆる焼却施設が許可対象となるわけですね。炭化(熱分解)処理装置が、焼却施設とみなされるかどうかによって、設置プロセスの難易度が格段に変わります。どちらも熱を使って廃棄物を処理している点では同じようにみえてしまいます…。これは温度の問題でしょうか?
これについては、過去に国会質問で取り扱われています。炭化炉(熱分解装置)と焼却炉、及びその設置許可に関する質問です。衆議院が答弁書を公開しています。
上記の答弁書によると、廃棄物処理法(第三条第二号ロ)では熱分解を「物を処分するために、燃焼を伴わずに加熱することにより分解すること」と定義され、「熱分解室から発生したガスを当該熱分解室と一体的に機能する別の空間で燃焼させる場合」は、焼却施設に該当するとしています。
「燃焼」は、炎をあげて燃えることですので、炎が出ない熱による処理であって、ガスの燃焼も行わない装置は焼却にあたらず、施設許可の対象にはならないといえます。
ただし留意すべき事例もあります。例えば、構造上、限界酸素濃度(可燃物が燃焼するために必要な酸素濃度)を上回る量の酸素が外部から供給され、熱分解室内で廃棄物が継続して燃焼され得る状態であれば、外見が熱分解炉であっても再検討が必要です。
さらに、廃プラスチックの一次分解で溶融し分解炉の下部に落下していく間に二次的な分解が起こり、実質的に燃焼していると判断できるような場合も検討が必要だと考えられます。なお、外見や名称にかかわらず、廃棄物処理で燃焼処理を伴うものは産業廃棄物の焼却施設に該当し、許可が原則必要となるので注意が必要です!
廃液、汚泥は水濁法もチェック
続いて、「廃液中の有害物質を分解するオゾン処理装置」「有機汚泥を分解する微生物処理槽」のケースを考えていきます。
オゾン処理装置や微生物処理槽は表2の15条施設リストに見当たりません。しかし、各処理施設が「汚泥、廃酸又は廃アルカリに含まれるシアン化合物の分解施設」と判断されると許可が必要になります。
シアン化合物を含む排水の処理方法には、アルカリ塩素法、紺青法、電解酸化法、吸着法、沈殿法、そしてオゾン酸化法と生物分解法などが知られています。「汚泥、廃酸又は廃アルカリに含まれるシアン化合物の分解施設」と判断されると許可が必要になります。シアン化合物を分解する処理施設であれば、規模や処理量に関係なく許可を得る必要があります。ここで注目すべきは「分解」です。
オゾン処理は化学反応による分解、微生物処理は生物分解です。どちらも分解と表現でき、15条施設には第11号の「汚泥、廃酸又は廃アルカリに含まれるシアン化合物の分解施設」が該当します。
許可対象は「シアン化合物の分解」に限定しているので、汚泥、廃酸、廃アルカリ内のシアン化合物を分解できない処理の場合は、施設設置許可の対象外といえます。例えば、汚泥などにシアン化合物を含んでいたとしても、微生物がBODの分解に特化していてシアン分解菌が存在しない、シアンを分解する能力がないという場合なども、「シアン化合物の分解施設」とはいえないので、対象外と判断できると思います。
逆に、シアン化合物を分解する場合は、施設許可設置が必ず必要ということでしょうか?もちろんその可能性も十分にありますが、もう一つ考慮しなければならない点があります。それは、水質汚濁防止法との兼ね合いです。水濁法は特別法にあたり、一般法である廃棄物処理法よりも優先して適用されます。水濁法の規制範囲内(排水処理)で分解処理を行っている場合、水濁法の規制を守っていれば、原則、廃棄物処理法の規制は受けないということです。
特定施設の届け出内容を確認
水濁法では、「鉄鋼業の圧延施設」のように、業種と施設の種類を指定していて、該当する場合には特定施設として届出が求められています。この届出の中には「汚水などの処理の方法」「用水及び排水の系統」など、発生した汚水がどのように処理され、放流等されるかも記載しなければなりません。この届出内容に排水処理施設として「シアン化合物の分解施設」が含まれていて正式に受理されれば、それは水濁法の規制範囲で扱う施設となり、廃棄物処理法の施設設置許可の対象ではないといえるのです。
分かりやすい中和施設の例を挙げてみましょう。工場内から発生する様々な汚水は、排水処理施設で混ざり合い、中和されていますが、表2「第6号 廃酸・廃アルカリの中和施設」として廃棄物処理法上の施設設置許可の対象にはなりません。単純な中和処理でも、シアン化合物の分解でも、理屈は同じです。
では、シアン化合物に関して廃棄物処理法上の施設設置許可が必要な場合とはどんなケースでしょうか?まず、他人が排出するシアン廃液を業として受託処理する場合です。また、自社で発生したシアン排水を自社の排水処理施設で処理する場合でも、水濁法の特定施設とは全く関係のないところで発生した廃液(シアン化合物含有)を処理する場合です。水濁法では特定施設の排水が規制対象になります。一方で、有害物質であるシアン排水が発生する施設で、水濁法の規制を受けないというのは想定されません。
もう一つは、排水処理施設で処理されたあと、施設から排出された汚泥などの廃棄物を更に処理する場合です。排水処理施設で発生した余剰汚泥を引き抜いて処理する場合、引き抜いた時点で排水処理設備からは切り離されているので、その後に脱水など何らかの手を加えるのであれば、廃棄物処理法の「自ら処理」とみなされます。「自ら処理」の内容が、表2に示した「施設許可が必要な施設」であれば、設置許可が必要です。
設備導入時には必ず確認を
以上述べたように、小規模な施設を使って「自ら処理」を行う場合であっても、施設の種類によってはかなり複雑な判断が必要となる場合もあります。特に、表2の第9号から14号は、取り扱い量が微量でも、いかに小規模な施設であっても許可が必要になります。
一方、水濁法の規制範囲なので廃棄物処理法の設置許可不要と判断した場合、当然ですが水濁法の規制を詳細にチェックし、必要な手続きをする必要があります。「汚水の処理方法」を変更する場合は、工事着手の60日前までに変更届を都道府県知事に対して提出しなければなりません。
自社で新しい設備を導入することで、処理委託量の削減など、中長期のコスト改善効果が見込める魅力的な施策となるケースも多くあります。一方で、既存の方法を変える場合には、法的に必要な手続きに漏れはないか?という視点で入念にチェックをする必要があります。廃棄物処理法にかぎらず、水濁法、大防法、騒音振動防止法等々、「気がついたら届出対象施設が増えていた」という違反状態や不適正事例も数多く見聞きすることが実際にあるんです。新設備の導入の際は、必ず網羅的なチェックの上、許可取得等にかかる手間も見込んで慎重な判断をしていただきたいです。