2023.08.31
令和5年10月、建築物と船舶の解体・改造・補修工事について、有資格者による調査を義務付ける改正法が施行されます。
建築物(事業所内の事務所や工場建屋、倉庫など)を解体する際には、委託した解体業者が有資格者による調査を行っているかなど、改正法への対応を確認する必要があります。一方、工作物(ボイラー、配電設備、加熱炉など)の解体等については現状有資格者による調査義務はありません(資格者以外による調査自体は必要)。
しかし、令和5年1月に公布された改正法により、令和8年1月1日には工作物の解体等についても有資格者による調査を義務付ける施行が予定されています。
今回は、より製造業への影響が大きいとされる工作物の事前調査について、現時点で施行されている部分も合わせて、施行対応の準備に向けた情報整理をしていきます。
事前調査に伴うプラントメーカーの悩み
ある日、とあるプラントメーカーから質問を受けました。
「製造設備のトラブルがあると、急遽設備の修理を行う場合がある。この場合に事前調査を行う期間に加えて、調査の結果が「石綿あり」となると工事の14日前までに届出が必要なため、長期間に渡って製造を止めてしまうことになる。何か対応策はないか?」
非常に悩ましい質問です。
設備トラブルですぐに対処が必要なのに、14日以上待たなければ着手できないというのは、製造現場では死活問題になりかねません。
法改正によるものとはいえ、客先への説明にも苦慮することでしょう。
こちらの質問に対する回答を探りながら、今回の法改正で求められることを整理していきます。
アスベスト事前調査の対象となる工作物
対象となる工作物は、以下の通り定義されています。
これらの工作物は「特定工作物」として、解体等の際には事前調査の対象となります。
また、上記以外の工作物であっても、「石綿にばく露するおそれが比較的高い作業(塗料その他の石綿等が使用されているおそれのある材料の除去等の作業」は事前調査の対象です。
「石綿等が使用されているおそれのある材料」とは、「塗料、モルタル、コンクリート補修剤(シーリング材、パテ、接着剤)」が例示されています。
アスベスト事前調査と行政報告
対象となった工作物の解体・改造・補修工事は、事前調査を行わなければなりません。
事前調査の結果、石綿建材の使用が判明した場合、作業開始の14日前までに管轄自治体への届出が必要です。届出は発注者の義務です。
ここで冒頭の質問に戻ります。
この事前調査と14日前までの報告に要する時間が、「設備の早期復旧」を妨げ、最悪の場合生産ラインの停止に追い込まれてしまう可能性があります。
しかし、事前調査と行政報告の詳細を確認していくと、「緊急メンテナンス」という事態において、「即時着工できない状態」に陥るケースはそう多くないのではないかと考えられます。
まず、事前調査の方法ですが、「書面調査」「現地調査」「試料採取分析」の3段階に分けられます。事前調査のフローを下記にまとめます。
図1:事前調査のフロー(詳細はこちらから)
上記2箇所の※印部分がポイントです。
②で「書面調査のみで『石綿使用なし』と判断してはいけません」となっているので、事前調査は必ず現地で目視確認を行わなければいけないと思われがちです。
しかし、年代から明らかに石綿使用の可能性がないと判断できる場合は、書面調査のみで良いのです。
「石綿含有建材が使用されていないこととできる着工日」は次のとおりです。(詳細はこちらから)
設備の設置年代を確認し、上記の年代以降であることが確認できれば、それで事前調査が終わりとなり、すぐに着工できます。
もう一つ、過去の調査結果があれば、その調査結果で判断可能という基準もあります。同じ調査をもう一度する必要はありません。
重要度が高い施設であれば、事前調査を予め行っておくことで(石綿使用がなければ)すぐに着工できる準備をしておくことができます。
ここまで、石綿使用が無いケースを想定していましたが、事前調査の結果「石綿使用あり」となった場合はどうでしょうか。この場合は、次に想定されるメンテナンスが、報告を必要とするかどうかを確認します。
行政報告の必要がある工事を厳密に定義すると「石綿含有吹付け材、石綿含有保温材・断熱材・耐火被覆材を除去、封じ込めまたは囲い込みを行う場合」です。
※囲い込みは、著しく飛散するおそれのある場合のみ
石綿が使用されている工作物であっても、メンテナンスで着手する箇所に使用されていない場合や、使用されていたとしても、バルブで接続されている配管を外し清掃する作業などのように、石綿含有建材を一切傷つけずない作業は、報告の必要がありません。
このように、一つひとつの要件を整理していくと、最終的に着手14日前までに行政報告が必要な「緊急メンテナンス工事」は、そこまで多くはないのではないかという印象です。
報告対象工事の期限短縮はできないのか?
上記の整理をした上で、報告対象工事に該当する場合は、やはり原則14日前までに行政報告が必要です。
石綿の飛散などを防止するために、事前に工事内容を把握して、不適切な工事計画には指導を行うことが目的です。急な工事だからといって、報告が免除される事はありません。
ただし、とある県に聞き取り調査を行ったところ「速やかに行政報告を提出した上で相談してもらえれば、工事の内容によって簡易的なチェックで着手日の前倒しを許可することも想定できる」との見解を得られました。
管轄行政や担当者ごとに対応が異なりますので、必ず短縮できるわけではありません。短縮ありきで動いてはいけませんが、安全上問題がなさそうなら、内容次第では短縮させてもらえる場合もあるようです。
有資格者による事前調査
ここまで整理してきた工作物の事前調査と行政報告の流れですが、令和8年1月1日から、有資格者が事前調査を行うように義務付けられます。
有資格者とは、「工作物石綿事前調査講習」を受講した者のことを指し、今後専用の講習が各地で開かれる予定です。「建築物石綿事前調査講習」と一部内容が重複するので、免除される科目がありますが、必ず工作物専用の科目は受講しなければなりません。
既存業者の殆どがこれらの講習を受講するには、相応の期間が必要であるため、施行日が令和8年1月1日となっています。まだ先のように思いますが、自社の事業で必要な場合は早めの受講をおすすめします。
また、発注者の立場であっても、取引先に講習の受講状況を確認するなど、改正対応のチェックを勧めていきましょう。