今回のコラムでは、実地確認の必要性や実際の流れなどの”基本”を解説します。実地確認のご経験がないご担当者様や、まさにこれからというご担当者様に、是非、本コラムを読んで実地確認に備えていただきたいと思います。
不法投棄事例で理解する実地確認の必要性
まず、なぜ実地確認が必要なのか?それを考えるには、こちらの不法投棄事件が参考になります。
平成11年、青森県と岩手県の県境で大規模な不法投棄が発覚した事件です。両県の撤去完了までにかかった年月は14年にもなりました。
投棄された廃棄物からは、約12,000社もの排出事業者が特定され、廃棄物を撤去する措置命令が課されました。さらには、排出事業者の実名報道となったケースもあり、企業イメージに大きなダメージとなりました。
過去の不法投棄・不適正処理の主な原因は、廃棄物処理業者のずさんな受け入れ体制によるオーバーフローといわれています。自社の処理能力以上の廃棄物を受け入れたために、処理が間に合わなかったり、本来必要な処理ができずコストに見合う残渣の処分先が確保できない、といった事態が起こります。
そのような事態に陥る理由としては、不健全な財務体質が挙げられます。
【不健全な財務体質】
よって、大事なのは委託前はもちろん、委託契約締結後も定期的に視察を行い、管理能力があるかどうか、自社の廃棄物が適切に処理されているかを確認することが挙げられます。これが、実地確認が必要な理由です。
実地確認の努力義務
廃掃法上どのように規定されているの?
平成22年の改正廃棄物処理法において、実地確認は『努力義務』として明記されました。自治体によっては、『義務』として排出事業者に課しているケースもあります。
(廃棄物処理法第12条第7項及び第12条の2第7項)
事業者は、前二項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、当該産業廃棄物の処理の状況に関する確認を行い、当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならない。
ここで示されている「処理の状況に関する確認」とは、①委託先の中間処理施設や最終処分場に、適正処理のために必要な能力があるか、そこで適正な処理が行われているかを実地で確認すること、②処理状況及び維持管理状況等の公表情報から施設の稼働状況等、適正処理が行われているかを確認すること、③委託先を選定する際だけでなく、契約締結後に定期的に確認すること、のことです。
排出事業者は、委託契約を締結する前だけでなく、締結後にも年1回等、定期的に実地確認を行うことが望まれます。委託契約書に沿って廃棄物の処理を実施しているか、処理する能力を有しているか等を実際に確認することで、適正処理を一層確保します。
【実施確認を行うタイミング】
ここを押える!実地確認3つのポイント
それでは、実地確認の必要性を確認したところで、実際の流れを3つのポイントに分けて解説していきます。
ポイント1:事前準備編
実地確認へ赴く前に、事前に情報収集をしておくことが重要です。現地では書類や施設、車両の確認、ヒアリング等、多くの時間を要します。事前に情報を集め、当日はどこを重点的に見るか・ヒアリングするかを決めておくと効果的な実地確認が可能となります。
■事前に提供を受けることが望ましい書類
以下の書類に基づき、質問事項や確認事項を事前に洗い出し、現地調査の際に確認することが望まれます。事前に情報収集をしておくことで、当日、スムーズな実地確認が可能となります。
(処理会社が下記の書類を全て用意できるとは限りませんので、予め委託先へご相談いただくことをおすすめします)
【事前に確認しておきたい書類例】
■HP等による情報収集
会社HPや産廃情報ネット(情報公開している業者のみ)等、インターネットによる情報収集をすることも望まれます。また、自治体に問い合わせ、その業者に関する許可状況や過去の行政指導履歴を確認することも事前の準備として挙げられます。加えて、他の関連業者(処理・リサイクル業者)の評価も参考になる可能性があります。
【様々な角度からの情報収集】
ポイント2:視察当日~施設管理編~
事前の準備を終えたら、いざ、視察です。
■現地調査での情報収集
現地においては、施設や車両等の管理状況や稼働状況を確認することが重要です。おすすめは、ポイントをまとめたチェックシート等を準備していくことです。その際は、処理施設によって確認ポイントが異なるので注意が必要になります。
【確認ポイント例】
■近隣住民とのコミュニケーションの確認と現地の写真撮影
確認するのは施設だけではありません。近隣住民に当該施設に関する情報を聞くことにより、振動・騒音・悪臭の有無、住民とのコミュニケーションがうまく取れているか等を確認することができます。
また、現地の写真を撮影することもおすすめです。撮影が可能かどうかは委託先により異なりますが、できる限り撮影することが望まれます。現地調査の記録として重要なものになります。
【写真撮影例】
☑ 許可看板(実地確認をした証拠として、確認者も写るようにします)
☑ 工場全体の写真(工場の入り口から写真を撮るようにします)
☑ 中間処理設備(破砕機や圧縮機等)
☑ 保管されている廃棄物
☑ 廃棄物の展開検査場(受入れた廃棄物が許可の範囲内の物かを確認する所も撮ります)
ポイント3:視察当日~社員教育編~
■スタッフのモラル・保有資格
書類や施設だけでなく、スタッフの対応やモラルのチェックも重要です。直接、対応する担当者だけでなく、工場スタッフ・
事務スタッフを見ることは、社員教育が行き届いているかの確認として効果的であると考えられます。また、業を行う上で必要な保有資格の確認も重要です。
【スタッフの確認ポイント】
■スタッフの社員教育
また、施設を安全に運用するための仕組み作りの整備や、新入社員等への教育訓練、事故緊急事態への対応訓練が実施されているか等も確認することが望まれます。細やかな社員教育は、施設の安全性に繋がります。
【社内教育確認ポイント】
従業員の作業手順
☑ 施設・重機等を安全に運用するための作業手順及び手順書があるか。
☑ 資格の管理が適切にされているか。
新入社員等への教育訓練
☑ 資格取得の社内制度や管理があるか。
☑ 手順書を用いた教育訓練が実施され、それらの記録があるか。
☑ 過去の事故緊急事態や、ヒヤリ・ハットの共有がされているか。
事故緊急事態への対応
☑ 事故緊急事態が発生した際の対応手順が明確になっているか。
☑ 定期的な訓練をしているか、また、それらの記録があるか。
さらに効果的な実地確認を行うためのポイント
実地確認は委託先ごとに、年に1~2回が妥当な調査頻度であると考えられます。よって、年間スケジュールを組み、定期的に調査を行うことを心がける必要があります。また、実地確認を行う際は、工場の現場担当者の方だけでなく管理部門の担当者の方も同行し、全社基準をクリアしているかをダブルチェックされることをおすすめします。
さて、ここまで実地確認のポイントを確認してきました。いかがでしたでしょうか?
処分場の実地確認には、排出事業者責任を果たすことと、自社の廃棄物リスクを低減させるという2つの側面があります。そうすることで、適切な廃棄物管理とコンプライアンスの維持が可能になります。
ぜひ、万全の準備を行った上で、実地確認を行っていただきたいと思います。